とりもと硝子店さんの工房訪問レポート

とりもと硝子店

ガラス作家の鳥本雄介(とりもと ゆうすけ)さんと鳥本由弥(とりもと ゆや)さんご夫妻のガラス工房「とりもと硝子店」を訪ねて、吹きガラスの作品に触れてきました。

のどかな山間に佇む「とりもと硝子店」さんの工房

とりもと硝子店の工房

京都府京丹波町にガラス工房を構える「とりもと硝子店」さん。
「丹波の長老」と呼ばれ、京丹波町の町のシンボルにもなっている長老ヶ岳の麓、自然豊かな山間にガラス工房がありました。

のどかな風景の中に溶け込む日本家屋は、どこかジブリの世界観を連想してしまう素敵な空間。

吹きガラスとは

吹きガラスについて

吹きガラスという製法で作られる、とりもと硝子店さんのガラス作品。

1300℃以上の高温で溶かされたガラスが入っている「坩堝(るつぼ)」から「吹き棹(ふきざお)」と呼ばれる細長い鉄のパイプでガラスを巻き取り、息を吹き込んで作品の原型作りをしていきます。

そして併設されている再加熱炉にて、再び1300℃ほどの高温でガラスを軟化させ、カップやお皿といった作品を形作っていくのです。

最後はガラスをゆっくりと冷ましていく「徐冷炉(じょれいろ)」にて、ガラスが割れないように時間をかけて冷まして完成。
冷ますといっても徐冷炉も500℃くらいの高温なので、びっくりですよね。

ガラス制作、特に吹きガラスの制作は、炉の設備だけでも3つの用意が必要で、ガラスを溶かす炉である「坩堝(るつぼ)」は、どのガラス作家さんでもほぼ1年中、稼働させて続けているので、ハイコストなのです。
ガラス作品が陶器や磁器よりも、少し値が張るのは、そういった理由が背景にあるのです。

とりもと硝子店さんのこだわり

とりもと硝子店のガラス作品

ガラスの強度や透明度はもちろん、耐熱性や音の響きに至るまで、クオリティにこだわりぬくため、ガラスの原材料から独自に調合されています。
10種類に及ぶ、ガラス原材料を正確に調合し、バランスよく調合することでしか表現できない透明性などのクオリティ、それがとりもと硝子店さんのガラス作品なのです。

また使いやすさの面も追及されており、ガラスのコップなどを例にとりますと、ガラスのコップそのものの持ちやすいサイズ感や重さのみならず、飲み物を入れた状態での重さまで考えて作られているため、自分に合うコップを見つけられると、オーダーメイドのような作品に出会うことになるのです。

さらにガラス作品を使う人それぞれ、手の形やサイズも違うことから、展示会や個展の際には、自分に合ったガラスを探してほしいがために、同じ作品でも、わざと個々の大きさを変えて作るのだとか。

取材はじめに、ガラス制作に関して、さらっと「特に変わったことはしていません。」とおっしゃっていた鳥本雄介さん。
謙遜されている素振りもなく…。

そんなはずはないとガラスのことを聞いていると、いろいろとこだわりがありました。
きっとご自身では、このクオリティの高さが当たり前のようになっているのですね。

ここまで作り込んで頂いてるなら、なおさら自分専用のガラス作品を見つけたくなりますよね。

吹きガラス制作の実演

工房にてガラス制作をされていた「とりもと硝子店」の鳥本雄介さん。
ガラス制作の一連の流れの実演も見せてもらいました。

モノにもよりますが、一日20~30個も制作されることがあるそう。

印象的だったのは、鳥本雄介さんのガラスを作るリズムです。
とてもリズミカルに作り上げていくのです。

「先の制作行程を考えてしまうとうまくいかないことが多いんですよ。」とおっしゃっていた鳥本さん。
身体に覚えさせた技術を、赴くまま自然体で制作されているような印象を受けました。

また「その日の気温や窯の温度や具合によって、一番作りやすいものを作るんです。」と。

自然の流れに逆らわず、気候や温度・状況によって、生まれてくるべき形のガラスを生み出してあげる。
本来、モノづくりにおいて、それが一番自然で、魅力ある作品を生み出すために大切なことかもしれないと再認識させてもらう場面でした。

とりもと硝子店さんの大切にしているものが見えてきますね。

自然のイメージから生み出されるガラス作品

自然のイメージから生み出されるガラス作品

自然のものをモチーフにすることが多いとりもと硝子店さんの作品。
その中でも鳥本さんご夫婦が作品のテーマのひとつとして大切にしているは「水」です。

お住いの近くにもきれいな川があるのですが、水に何かしらの縁を感じることが多かったとのことで、そういったインスピレーションを大切にされています。

作品名には「あぶく」や「泡沫」「波紋」「滴り」、泳ぐを意味する「游水」など、水にちなんだ名前をつけられることも多いのです。

師匠・荒川尚也さんから受け継いだもの

荒川尚也さんから受け継いだもの

とりもと硝子店さんのお話をさせて頂く上で、ひとつのキーワードになってくるのが、鳥本さんの師匠である「晴耕社ガラス工房」の荒川尚也(あらかわ なおや)さんの存在であると思います。

鳥本さんご夫婦ですが、2015年に独立される前は、同じく京都の京丹波町にある「晴耕社ガラス工房」の荒川さんのもとでガラス制作をされていました。

鳥本さん自身「ガラス制作が楽しく感じ、続けられているのは、親方(荒川さん)のおかげだと思います。」ということを何度か語られるほど、尊敬されている作家さんなのです。

ガラスに魅了され、ガラスを作りたいという一心で弟子入りした鳥本さんに、ガラス作りの楽しさを伝えた荒川さん。
今の鳥本さんご夫妻の素敵な作品があるのは、鳥本さんの努力の他に、荒川さんの存在も大きいのかもしれませんね。

受け継いだのは、技術や仕事面だけでなく、他の大切なことも学ぶことが多かった師弟関係だったんだろうなぁと感じました。

垣間見える「とりもと硝子店」さんのおしゃれなセンス

とりもと硝子店さんのおしゃれなセンス

とりもと工房さんの取材の際に、工房の隣にある鳥本さんのご住居にて、お話をさせてもらっていたのですが、部屋には魅力的なインテリアがたくさん。
制作されているガラス作品もさることながら、アンティークのオルガンや、味のある民族楽器たち、苔や山野草を使ったテラリウムにも興味津々。

何気なく置かれているインテリアや、苔テラリウムなどの飾り方がおしゃれで、高いセンスを持っていらっしゃるなぁとヒシヒシと感じる場面でした。

鳥本雄介さんについて

鳥本雄介さんのガラスのうつわ

奥様の由弥さんいわく、もくもくと同じものを作るのが得意なタイプの鳥本雄介さん。

真剣なまなざしで制作に励む中、時折こぼしてくださる会話が、雄介さんのほっこりとした素のお人柄を拝見できて、とても印象的でした。

「坩堝(るつぼ)は、一年中稼働させていて、火を絶やさないので、泊まりの旅行などは一切できないんです。でも、この仕事をやりはじめてしまったものは仕方がない。」とにっこり笑みをこぼす鳥本雄介さん。

苦労されているはずなのに、そんなことを微塵も感じさせず、苦労も楽しみの一部として受け入れている雰囲気が伝わってきて、すごく好感の持てる方でした。

単に「ポジティブ」や「まっすぐ」という言葉だけでは括れない心地よい雰囲気の方で「ガラスを作るのを素直に楽しまれている感じ」が伝わってくるのです。
簡単なようで誰もができずにいることなのですが「自分の仕事を好きで居続けられる」才能をお持ちの方なのだと思います。

鳥本さんの手から生み出されるガラスたちは、魅力を十二分に引き出されることで、ガラスたちにとっても幸せなことなのかもしれませんね。

鳥本雄介さんのプロフィール

1975年
神戸市生まれ
~2000年
大阪芸術大学デザイン学科卒 印刷会社勤務
2000年
晴耕社ガラス工房入社 荒川尚也氏に師事
2011年
日本クラフト入選
2015年
独立し「とりもと硝子店」を開窯

鳥本由弥さんについて

鳥本由弥さんのガラスのうつわ

幼少の頃から、おはじきやビー玉などガラスが大好きだった鳥本由弥さん。
幼少期、沖縄のガラス職人さんをテレビで観て「わたしはガラスの仕事をするんだ」と直観的に思ったとか。

大学では彫刻を学んでいたこともあり、デザインが得意分野。
いきなりガラスの世界に飛び込むよりも、いろいろデザインの勉強してからの方が良いかと思い、大学に通われたそうです。
そして大学卒業後、やはりガラスの道に進みたいと思い、富山ガラス造形研究所へ。

いろいろと振り返るように、笑いながら話してくれた由弥さんが印象的でした。

毎回違うガラス作品を作ることが楽しみなタイプの鳥本由弥さん。

「主人とはタイプや性格は違うけれど、作品の方向性は一緒なんです」と。
ご夫婦で向き合うわけでもなく、背を向けるわけでもなく、同じ方向を向いて進めるのは、ほんとに理想のご夫婦だなと感じます。

現在は、育児との両立で、吹場に立つ機会が少なくなってしまうため、デザインの勉強も兼ねて、プランツドローイング(草花を使ったイラスト)を描いておられ、インスタグラムなどにアップされています。

鳥本由弥さんのプロフィール

1978年
大阪府生まれ
~2005年
京都造形芸術大学美術学部 彫刻コース卒
富山ガラス造形研究所卒
2005年
晴耕社ガラス工房入社 荒川尚也氏に師事
2015年
独立し「とりもと硝子店」を開窯

とりもと硝子店さんのイベントのピックアップ

  • ガラスのうつわ展2019 Autumn

    ガラスのうつわ展2019 Autumn

    日時
    2019/9/14~2019/9/20
    会場
    和食器セレクトショップflatto/滋賀県大津市
    出展
    とりもと硝子店・サブロウ・宮下万里・金津沙矢香
  • GULIGULI ものづくりマルシェ

    GULIGULI ものづくりマルシェ

    日時
    2019/4/27~2019/4/28
    会場
    GULIGULI/大阪府池田市
    出展
    ミズタマ舎・とりもと硝子店他

まとめ

とりもと硝子店のガラスのうつわ

鳥本さんはご夫婦ともに穏やかで、それでいて芯があり、すごく素敵なご夫婦でした。
作家ご自身のことや、うつわのことなど、いろいろと話を聞かせて頂いた後ということもあり、とりもと硝子店さんのガラスで、おもてなし頂いたお茶がすごくおいしく感じ、感慨深いものがありました。

取材帰りの車の中では、我々flatto(フラット)夫婦も、鳥本さんご夫妻の話が尽きることなく。
なんだか心地よいものをもらえた取材でもありました。

お二人が作られるガラス作品のひとつひとつに、素通りしてはもったいないほどの物語が詰まっているように思えて、あたたかいものを感じてしまいます。

ぜひお二人のインスタグラムなども、のぞいてみてくださいね。

とりもと硝子店さんのSNS

とりもと硝子店さんのインスタグラム
https://www.instagram.com/torimoto1222/
鳥本由弥さんのインスタグラム
https://www.instagram.com/yuyat.i.g.a216/
とりもと硝子店さんのfacebook
https://www.facebook.com/torimotoglassstudio/

和食器セレクトショップ flatto(フラット)

  • TEL:077-576-3174
  • 住所:〒520-0503 滋賀県大津市北比良1043-62
  • OPEN/CLOSE:11:00~17:00
  • ホームページ:https://flatto.jp/